会社やお店を経営していながら、まだホームページを持っていないとしたら、その理由はいくつもあるでしょう。
「費用がいくらかかるかわからない」「どこに頼んだらいいかわからない」などとともに、最上位に来るのは「同業者のホームページを見ても、伝わってくるものが少ない。この程度のものならば、わざわざ持とうとは思わない」ではないでしょうか。
丸投げで、効果も気にしていない依頼主
ホームページの大半は一見きれいにできています。最新のデザインを取り入れ、派手なアニメーションで盛り上げているホームページも少なくありません。
ただ、「それで終わり」のホームページがネット上にあふれているのは、「依頼主がOKをだす」が理由です。
そしてその依頼主は、「自分はネットにもホームページにも詳しくないから」と制作会社に丸投げします。チェックするのも、納品時に「きれいにできているか」「値段は安かったか」ぐらいしかありません。
いったんの完成を見たら終了です。「訪問者がどのくらいいるか」「ホームページを持ったことで、自分の会社やお店に何がもたらされたか」に関心を持つことはありません。
正直に言って、依頼主は制作会社から足元を見られています。
どこも似たりよったりのコンテンツになるわけ
こういったサイトでは、文章や写真も丸投げです。制作会社が適当に作るか、原稿代行業者に依頼します。原稿代行業者は、ライターを募集し原稿を任せます。
多くは"コタツ原稿"です。ネットで調べるだけで書いてしまう原稿を指し、「家でコタツにあたったままで書ける」という意味でこう呼ばれます。会社やお店は見ないままです。
Adobe Stockが提供する写真。雰囲気はよいのかもしれない。しかし、借り物の写真は、あなたの会社やお店を伝える情報にはならない。
写真も似たようなもので、"ストックサービス"が利用されます。撮り置いた写真を、安価、あるいは無料で供給してくれるのです。「どんな業種の会社・お店のホームページでも見かける、同じ女性がニコっと笑っている写真」がこの典型です。
写真は一瞬にして大量の情報を伝えられる手段のはずです。しかし、ストックサービスの写真には、あなたの会社やお店の情報は一切含まれていません。
しかし、コタツ原稿もストックサービスの写真も、依頼主たちは「ホームページ制作費が安くて済む」「自分の側は手間がまったくかからない」として歓迎してしまいがちです。
制作会社の大半がデザインやコーディングから始まっている
一般的な制作会社がコンテンツに不得意で、後回しにします。彼らの多くは、もともとWebデザイナーや、文章や写真のネット仕様の言語化をするコーダーから仕事を始めています。仕事の規模が拡大し、人を雇うようになっても、増やすのはデザイナーやコーダーばかりです。ライターやカメラマンを雇い、スタッフ化することはありません。
「文章執筆や写真撮影も自社でできる」としている制作会社もあるにはあります。しかし、プロと呼べるようなライターやカメラマンがいないことでは変わりありません。
「プロ仕様の高級一眼レフを用意しているので、写真撮影もお任せください」などとしている制作会社も見かけます。「包丁となべがあるので、料理が出せます」「玄人が使うカナヅチとノコギリを用意しました。大工仕事もお受けします」といっているのと変わりません。
「プロ仕様の……」とアピールするのは、「写真撮影にはスキルも経験も必要だと思っていない」証拠です。制作会社の意図とは逆に、「まったくの素人だ」と判断できます。
制作会社のいう「SEO対策に強い」はウソ
「SEO対策」とはGoogle検索で上位にそのホームページを持ってくる工夫のことです。ここで失敗すると、訪問者がまったくいなくなってしまいます。ホームページを持つ目的にもよりますが、たいては、せっかく掛けたお金も手間もすべてムダになります。
しかし、一般的なホームページ制作会社のいう「SEO対策に強い」は疑ってください。
そう断言できるのは、「SEO対策の成功・不成功はコンテンツが握っている」からです。文章や写真は「依頼主からの持ち込み」「原稿代行業者に下請けさせる」「社内の素人スタッフが担当し、見よう見まねでやる」の制作会社にはいえるはずがありません。
とはいえ、ホームページ制作会社もSEO対策に無関係というわけではありません。
「各ページの読み込みを速くし、スマホでも見やすくする」「検索エンジンに伝わりやすいように、ホームページの内部構造を整える」「セキュリティーを強化して、サイトとしての信頼性を高める」などは、Googleからの評価を高め、検索順を上げるためにやるべき仕事です。
にもかかわらず、「これらさえできていない制作会社が多数派」です。少なくとも、私の目に入る範囲ではそうです。
この意味でも、依頼主は制作会社から足元を見られています。
SEO対策がまったくされていないホームページの実例
「依頼主が『丸投げしない』『納品チェック』『評価と改善の継続』を怠ったホームページがどのようになるか」の実例を挙げます。
兵庫県知事選で悪名を流したmerchuも制作会社のひとつ
2024年秋に行われた兵庫県知事選では、斎藤元彦候補の選挙活動を支援したPR会社の折田楓社長が話題になりました。「選挙活動のサポートで報酬を受け取ったのではないか。公職選挙法に抵触している疑いがある」といった、決してよい話題ではありません。
インスタ対応と合わせ、merchuが1,300万円で広島市から請け負った旅行案内サイト。
そのPR会社「merchu(メルチュ)」(兵庫県西宮市)は、自ら……
「Instagramを主として、SNSやwebを活用したオンラインブランディングを手がける会社です。Instagramコンサル、写真撮影等を通して、企業様の魅力を引き出しキラキラ輝かせます」
……とアピールしています。「HP制作」も実際にいくつか請け負っているようです。
merchuが広島市から請け負った旅行案内のサイトも失敗作
その中から、2020年に広島市から請け負った旅行案内のホームページを検証してみます。
まず、タイトルが『広島tabi物語』となっています。
あとから、このページ内の「ホームページ制作にかんするよくある質問」でご説明するように……
「株式会社○○」「○○ベーカリー」「○○クリニック」「○○工務店」など社名や店名だけのタイトルになっていないでしょうか。(中略)その制作会社は「せいぜい見掛け倒しのホームページしか作れない。まったくの素人」と判断できます
……に近いタイトルです。
『広島tab物語』に対するSEOチェックの結果。左のトップページもひどいものだが右は"中のページ"のひとつで、さらにひどかった。「幼児が遊びで作った」というしかない。
本来ならば検索に掛かりそうなキーワードを盛り込まなければいけないタイトルを、このように映画タイトル風にしてしまうのも、「見掛け倒し」の一部です。
同じく「質問」で紹介したSEOチェックツール「高評価」にも掛けてみました。トップページもさることながら、"中のページ"も悲惨なものです。
発注主は広島市で、金額はインスタグラム対応と合わせて1,300万円でした。「市の担当者はよくもこんなものを受けったな。税金をドブに捨てたも同じ」といわざるをえません。
以上の話は極端な例と思われた人もいるかもしれません。しかし、発注主にしろ金額にしろ堂々としたものです。「規模の大きくない企業やお店、1ケタ少ない金額ならば、ありふれた話」と考えたほうがよいでしょう。